<プロフィール>
野島さん 兵庫県生まれ。小学校は大阪に、中学から慶應義塾大学付属に通う。高校2年生で中退し、イギリスのインターナショナルスクールに進学。現在はアメリカのイェール大学に在学し、Twitter本社でエンジニアとしてインターンをしていた。専攻はコンピュータサイエンスと、国際関係。

記事ダイジェスト

●アメリカは僕を受け入れてくれた
●Twitterインターンってどんなの?
●その選択に信念はあるか

●アメリカは僕を受け入れてくれた

——高校を中退するという選択をする人は少ないですが、どういうきっかけだったんですか。

【野島】まずコンピューターをアメリカで勉強したかったんですけど、英語が全然できなかったので、高校時代には日本を出ておかないと遅れるなと思いました。慶應もすごく好きでしたけど、元々は医学部に行きたくて慶應を選んだので、コンピューターの方がやりたいという気持ちが出てきた時に、慶應は最善の環境ではないのではないかと思いました。

──コンピューターに興味を持ち始めたのはいつからですか。

【野島】小学校3年生のときぐらいからアプリやゲームを作るのはよくやっていて、プログラミングを始めたのは中学1年生でした。物を作るのもテクノロジーも好きだったので、小学校時代はガラケーを駆使してやっていて、中学2年生くらいからiPhoneのアプリもやっていましたね。


——16歳で1人で海外に出られたわけですが、どのようなカルチャーショックがありましたか。

【野島】一番大変だったのは言葉の問題でしたけど、高校時代におもしろかったのは、やっぱりバックグラウンドの違いですね。通っていたのがUWCというインターナショナルスクールで、高校2年まではその生徒の国で勉強して、残りの2年間をイギリスに集めてやる学校なんです。90カ国ぐらいから生徒が集まって、出身国だけではなくて社会的な地位もバラバラでした。どこかの首相の娘と、マララと一緒にタリバンに撃たれた人が同じ学校にいるんですよ。ほかにも家で遊んでいる時に誘拐されそうになったイラク人とか。カルチャーショックというよりも、いろんなニュースを身近に感じられるようになりましたね。

——貴重な体験ですね。高校2年生で留学のために中退されるわけですけど、ご両親をどう説得されたんですか。

【野島】親が反対する理由って、留学に行く理由と費用の面が主ですよね。逆にその2つの面をしっかり説得できるだけの材料があれば、ほとんどの人を説得できてるんじゃないかと思います。自分の場合は日本でやることも考えたんですけど、コンピューターは日本で人気がなくて、中学時代からiPhoneアプリを作っている人は周りにはいなかった。やっぱり人数が多いというだけでも、アメリカの環境に自分を入れたいというのがありました。費用面では全額奨学金で行っています。

——高校生で英語がしゃべれない中でイギリスに行くという、かなり厳しい選択ができたのはなぜだと思いますか。

【野島】実は中学生の時にコンピューターでバカなことをして退学になりかけたことがあって、その時に教師からコンピューターをやめるように言われました。もちろん当時は自分がこれからコンピューターにすごく精通するような人間になるかどうかは分からなかったですけど、少なくとも周りで僕ほどにコンピューターをやっている人が他にいない状況で、才能の可能性を摘むような環境にはいたくないと思ったんです。それぐらいコンピューターが好きで、コンピューターができないなら日本にいなくていいやと思ったんですね。このエピソードをイェールに出して受かりましたし、アメリカは自分を受け入れてくれてくれたので、日本は今でも大好きですが、こっちの方が僕は住みやすいんじゃないかと思っています。

●Twitterインターンってどんなの?

——今、Twitterでインターンをされているわけですが、インターン先としてTwitterを選んだ理由は?

【野島】元々はブラッディ・マンデイの影響でセキュリティーに興味があるんですが、大学2年生でインターンの経験ない人が最初からセキュリティーはできないんですよね。みんなソフトウェアエンジニアから始めてるから、じゃあ僕もそこから始めようかと。強い理由があって来たわけではなく、プロダクトが好きでいい経験になるかなと思いました。

——実際にはどういうことをされてらっしゃるんですか。

【野島】初めてのインターンにしてはおもしろいプロジェクトを渡されています。ヘロンっていうプログラムで、データを解析したい人が1つのツイートが来たらこういう処理をしたいですというアルゴリズムをうちのプラットフォームに送信すると、ツイートが1日5億件でもできるんです。この規模でこのシステムを作るとなると壮大ですね。

——お給料ももらえるんですよね?

【野島】場所や経験によって違いますが僕の場合は1回目のインターンなのでそんなに高くないです。人によっては月に100万円ぐらいもらってきた人もいます。ここの大企業の新卒の年収が約1200万ぐらいなので、それと同レベルかちょっと低いくらいというのが目安ですかね。

——国籍でいうとどんな感じですか。

【野島】アメリカではインターンをしないとほぼ就職できないので、インターン生はほとんどが学部生なんです。だから必ずしもTwitter本社全体の出身国を表してる訳ではないですが、大体どの大学でも学部生の9割はアメリカ人なのでインターンでもアメリカ人は多いです。社員だと中国人とインド人も多いですね。

——なぜそこで日本人が入ってこれないのだと思いますか。

【野島】まず、日本人でアメリカに来る人はMBAだったり、ナチュラルサイエンスで研究をする人が多くて、CSをやる人が少ないですよね。最近はCSに興味がある高校生が増えてきて、特に海外のアイビーリーグとかスタンフォードとか行く人が増えてはいるんですけど、中国人と比べたら相当少ないですね。

——どうしたらそのような日本人を増やしていけるんでしょうか。

【野島】個人的な見解ですけど、日本で優秀な人はだいたい医学部か法学部に行きますよね。でもアメリカのトップ大学ではCSが一番人気なんです。もちろん日本でもごくまれに本当にCSに興味があってコンピュータ系に行く人はすごいと思うんですけど、だいたいみんな流されて医学部に行く人が多いと思っていて、それが変わる必要があるのかなと思います。



 ●その選択に信念はあるか

——野島さんの将来のキャリアについて考えていることはありますか。

【野島】さっきのセキュリティーの分野に関して、テクノロジーの面ではもちろんなんですが、同時に政治の面でも興味があって国際関係論も専攻しています。これがイェール大学を選んだ理由のひとつで、コンピュータサイエンスは大好きでなんですけど、エンジニアになりたいとはあまり思っていません。だからCS以外のことを一般教養としてしっかり学びたいと思いました。イェールはコンピュータサイエンスにはあまり強くないんですけど、それ以外は個人的には一番いい大学だと思っていたので。

なぜ国際関係論なのかというと、今サイバーセキュリティーがすごく重要な問題になってきて、政治的にポリシーを作り始めていますが、政治家はエンジニアサイドのことを全然知らないし、エンジニアも政治の世界がどういう状態なのかわかってない。だから2つが噛み合ってないんですよ。僕は両方とも興味があるので、そこのつなぎ役になれるようなことをしたいと思っています。方法は企業に就職することなのか、政治家になることなのかはまだわからないですけど、それが目標です。

——おもしろいですね。オバマが大統領になれたのは、Facebookの創業メンバーをチームに入れたからだとも言われますし、今回の大統領選挙でメールの漏洩問題でヒラリー・クリントンが苦戦しているところがあるから、確実に両者は関係があるけれども互いに理解していないというのが現状なんですね。

【野島】そうですね。スノーデンがリークした後のNSA(アメリカ国家安全保障局)の会議で、何十人の職員の中にエンジニアが2人しかいなかったそうです。アメリカでもそれぐらいのレベルなんですね。どう考えてもそれで何ができるんだって話じゃないですか。だからそこを変えていかなきゃと思いますね。

————CSと国際関係を一緒にやるというのはいわゆるリベラルアーツ教育ですよね。日本でもやっと注目され始めていますが、野島さんは実践されてみてリベラルアーツに対してどのように考えていますか?

【野島】いいシステムだと思うし楽しいけど、正直なところ、結局大学は勉強の仕方を学ぶ場所だと僕は思っています。国際関係論も、最初はどう論文を読めばいいかとか、どういう考え方をしたらいいかが分からなかったからクラスをとりましたが、4つくらい授業を受けてみて、もう自分で勉強できると思っています。あと7つぐらい授業をとってまで国際関係論という専攻の名前が欲しいかと言われたらちょっとどうかな。それだったら哲学とかアートとか、まだ勉強の仕方を知らない分野の授業をとって、少なくとも自分で勉強できるような状態にするのもいいかなと思ってます。


——最後に、日本におられる同年代の方は挑戦する人が少ないと思うんです。そういう同世代にメッセージをお願いします。

【野島】僕が上から目線で言うものでもないんですが、周りに流される雰囲気はよくないかもしれないですね。例えば商社に行くっていうのでも、ちゃんとした芯があって行きたいなら素晴らしいことだと思うし、それが仮に「俺は大学に行かないで本気でゲームをしたいんだ」というのでも信念があってやるんだったらいいと思うんです。やっていて一番楽しいとか、自分が本気で考えて導きだした方向に進めばいいんじゃないかと思います。それが結果的に「俺は周りに流される人生が一番いいんだ」っていうんだったら、それはそれでいい。確かに自分から頑張ってやるのって、そう簡単じゃないと思うんですけど、自分は一番何をやりたいのかを考えて主体的に生きるのがいいんじゃないでしょうか。

——確かにそうですね。本日はありがとうございました。